地理学者が哲学に目覚めたら最強だったんじゃないか

オギュスタン・ベルク著『風土学序説』を紹介します。

2 人それぞれの風土学(ある地理学者の場合) -2

本書第八章の内容 さて、ベルク氏は第七章までで検証した「地理学は存在論であり、存在論は地理学である」(p.378)という学説を論拠に、本章で自分の思いを強い口調で主張する。 p.378 思想史にかかわるこの事柄を確認することで、現代のわたしたちに関連し…

1 人それぞれの風土学(ある地理学者の場合) -1

風土学の実践例 本書には風土学から見た過去の出来事の実例が数多く登場する。 しかし、風土学の視点で現状を見て考え行動するという風土学の実践例は、ベルク氏本人による1つだけしか登場しない。 『風土学序説』第八章 市民体(シテ) 本書の序から七章を…

5 人間性の全容

人間は「負荷されつつ自由である」 ベルク氏は和辻氏に倣い、風土性は人間性の原点(人間存在の構造契機)であると主張した。 それではその原点から導かれる人間性の全容とは、人間全員の本来的な生き方に共通していえることとはどのようなことか。 本書『風…

4 実存と他者

僕にとって僕が実存するメリットは? 以前、人間が物の本性に触れる手段は文明を通じて体の外の物に通じる他に、瞑想を通じて自己の内面に潜む本性に至る方法があると述べた。 両者は手段は違えど求めることは同じ、主体性の確立であると同時にまた「実存す…

3 実存の内容から倫理のあり方を考える

実存は具体的な「ここ」でしか達成できない 世界観の宇宙化がかない「人として実存にめざめる」ことは「自分にとって〇〇がここにあること」に気づくことであるとベルク氏はいう。 p.18 「あれではなくこれがあること、あそこではなくここにあること」―この…

2 実存するということ

宇宙化は偶然と必然の間で起こる? 人間に把握不能な力の存在を実感できるか否かが、その人の世界観の宇宙化成否の分かれ目である。 それを促す要因には、本人の精神性が優れているだとか先人の経験を教育を通じて教わるなどが挙げられるが、最終的には「理…

1 実存のはじまり

人間の世界観はすんなりとは宇宙化されない ベルク氏は「風土」について下のように述べた。 人間の身体は(、、、、、、)、風土(エクメーネ)を身体化する(、、、、、、)(lgP/lgS)と同時に(、、、、)、これを宇宙化する(、、、、、、、、)(lgS/…

8 「風土」と人間は同時に実現する -2

物の本性と自分の本性の合致 ⇒ 夢中 ある人が自身の物理レベル、生態系レベル、文明レベルそれぞれの"持ち合わせ"から、ある具体的な環境/事物の文明レベル、生態系レベル、物理レベルへと、歴史・地理的な「おもむきに沿って」つまり無理なく働きかけた時…

7 「風土」と人間は同時に実現する -1

プロフェッショナルという姿勢 ところで、現実的な問題に取り組む真剣味では、職業的な専門家の右に出る者はいないかもしれない。 前出『発酵文化人類学』には発酵活動のアマチュアもプロフェッショナルも登場するが、やはり後者の発言は現実をよりしっかり…

6 やはり日本に八百万はいた、か?

「ウソかホントか」白黒ついたら世間話は終わってしまう 近代以降の自然科学とそれに続いて発展した社会科学は、様々な事物の機能性を受け取る人により著しく異なるその象徴性から正しく分離・分類し、機能性と象徴性その両方があってこそ人の世界を満たして…

5 世間話にふさわしい論点

日本の菌群&発酵ファン待望の書『発酵文化人類学』 『発酵文化人類学』(木楽舎、2017)を著した小倉ヒラクさんは、発酵デザイナーというユニークな肩書を名乗る。 この本で小倉さんは学生時代に学んだ文化人類学とその関連学問の知識、それに効果的な情報…

4 彼岸の力を味方に取り戻さんとする衝動 -2

菌群の活動にまつわる日本人の営みと価値観 菌は生物である。 菌は菌類という名で生物学において動物、植物と並び分類される生物の一種である。 菌類は専門的には真菌と呼ばれ、キノコ・カビ・酵母などがそれに含まれる。 また大腸菌や発酵食品においてはた…

3 彼岸の力を味方に取り戻さんとする衝動 -1

僕は前向きな信仰をもっていない ベルク氏は、人間は時代や地域にかかわらず「事物を身体化すると同時に宇宙化する」、つまり事物を通じて神秘的な力に触れることを求める生き物だという。 その姿勢は、人間の信仰を想起させる。 しかし僕は、神も仏も信じて…

2 地理学者による人間性についての仮説 その2 -2

人間は自分のまわりの物と調和した生き方において「生きている」という実感を得る生き物である 人間以外の生物は自分の体(の生死)に疑問をもったりせず、人間のように不満を感じずに生きる。 一方の人間は、まわりの物を身体化し、かつ宇宙化して取り込む…

1 地理学者による人間性についての仮説 その2 -1

人間自身には把握できない自分の/この世界の存在する意義 人間が物を「風土」にする(ベルク氏曰く物と通態する)ことで事物とその知覚者の双方に意味が発生するといった一連の運動の原動力、それは人間独特の本能すなわち肉体的な欠落感である。 人間は、…

7 社会の公式ルールと人間性

いま日本で公に通用しているルールは、人間性の原点からはずれていると思う 明治に近代化された日本は三権分立体制をとり、法制度というルールで仕切られるようになった。 そのルールは基本的に、西洋近代的な主客を分離するまなざしに貫かれていると思う。 …

6 個人として生きる自由 -3

都会的な日本人は近代社会のまっただ中にいる 近代化は前近代の文明(のルール)を土台としてさらに新しい次元のルールを生みだしたのではなかった。 近代化が行ったことは意味=おもむきの展開が通過する諸尺度層の最上段、文明レベルの解体だった。 文明的…

5 個人として生きる自由 -2

田舎(前近代的な価値観)と都会(近代的な価値観)の根本的な違いは「自分らしく人間らしい生活の第一条件として挙げること」にある 僕は前記事で、都会の住民が田舎の住民よりも他人に対する配慮が少ない、失礼で無神経だと言おうとしたのではない。 都会…

4 個人として生きる自由 -1

しがらみのない都会の良し悪し 日本の諸都市は、高度成長期の政策により田舎から多くの人を吸い上げて巨大化・過密化した。 人間の生活空間としてのそれらの都市は、住民が自分の力を専門的生業と私的生活の営みだけに集中できるよう、金銭を媒介として個人…

3 みんなで生きる自由と多様性の容認 -3

世間のメンバーになる条件 人間は共同体のルールに則って、日常的に人間以外の生物を殺す。 たとえ共同体の内部であっても、人間は食物連鎖の頂点に立つものとして人間以外の生物の生を必ずしも肯定しない。 家畜は共同体における他の物(非生物)同様に人間…

2 みんなで生きる自由と多様性の容認 -2

世間の本質 人間は他人と諸物(本書いわく風物身体)なしでは自分という人間存在の半身にすぎない(すなわち自分らしく生きることはできない)。 田舎のいわゆる世間で過去に縛られ将来にわたって頼り頼られながら生きることを嫌う人は、だからといって独力…

1 みんなで生きる自由と多様性の容認 -1

田舎の前近代的暮らしの良し悪し 人間の有限性の自覚とそれを克服しようとする主体的な行動はかつて、共同体における内発的な危機管理という形で具現化されていた。 近代がやってくる前、共同体はどのようなルールでもって運営されていたのか。 これから3記…

11 人間の発揮する自由は生の次元からさらなる高次元へ向かう -2

自由にふるまう身体と「風土」の原則 人間が定めるルールの類は、定められた時から例外の発生や状況の変化により変化を始める。 その変化は、ルールが本来定められた目的を理解している限りで、本来の目的に沿って進行するだろう。 「何のためにルールを守ら…

10 人間の発揮する自由は生の次元からさらなる高次元へ向かう -1

人間が他人と共に環境を取り込もうとする理由 人間と物をそれぞれ方向づける意味=おもむき(それのそれらしさ、その人のその人らしさ)は、ある社会の文明(風性)の次元(本書の用語では尺度)だけで展開するのではなく、それを下支えする次元すべてを含む…

9 意味=おもむきとは何か -3

何かとして →← 何者かとして 何かを「〇として」扱う人間には、「〇」にふさわしい態度や行動が求められる。 たとえば日本のシンボルであり世界遺産たる富士山のおもむきに、ゴミは似つかわしくない。 富士山に登る人は、富士山の登山者「として」自分の出す…

8 意味=おもむきとは何か -2

人がものに意味を感じるとはそれを「○○らしくとらえる」ということではないか ベルク氏は『風土学序説』の冒頭から意味=おもむきという語を使う。 p.12 この書物が語っているのは…わたしたちの世界を生み出し、この世界についてわたしたちに語りかける言葉…

7 意味=おもむきとは何か -1

キーワードは「として」だ だいぶ脱線したが、話を地理の授業に戻そう。 ある人が物を「〇〇として」把握するとき、元来は意味などもたない物が、その人の風物身体「風土」となってある特定の意味を宿す。 物は原初の状態、すなわち人間に把握しがたい「宇宙…

6 そして風土学へ

新たな地理学が前提とする学問 = 風土学 ベルク氏がおそらく前記事のように考えると同時に提唱した新たな学問「風土学」は、諸科学の知識を地理学と和辻氏が直感的に描いた「人間存在の構造契機」に沿って組み立て直し、近代思想が解体した昔の世界観に代わ…

5 環境可能論から1歩進んだ地理学

地域住民の世界観を加味した地域性 ベルク氏は和辻哲郎『風土 人間学的考察』に触発されて、地理学の対象である「世界」や「地域」といった事物はそれが立脚するところの自然科学が対象とする事物とは異なり、地理学者自身を含め対象地域の住民その他様々な…

4 有限の宇宙という世界観

科学の限界 またもう1つ重要なのは、ベルク氏は学者という宗教家や詩人とは異なる分野の専門家として、彼らのようには「宇宙の端緒」を仕事の対象として扱うことができないことを自覚している点だ。 ベルク氏は哲学を参照することで、地理学に限らず全学問に…