地理学者が哲学に目覚めたら最強だった説

オギュスタン・ベルク著『風土学序説』を紹介します。

5 環境可能論から1歩進んだ地理学

住民の視点(あるいは世界観、価値観)を研究対象に加えた地理学

ベルク氏は和辻哲郎『風土 人間学的考察』に触発され、地理学の対象である「世界」や「地域」の事物はそれが立脚するところの自然科学が対象とする事物とは異なって、地理学者自身を含め住民その他様々な人間のまなざしをまんべんなく含んでいることをおそらく再認識した。

人文地理学者としてベルク氏は、このまなざしがその他の地理的対象(自然条件、生態系、政治、経済、宗教 etc.)と同じように「世界」や「地域」におけるどの側面を占めるのかを明らかにすることが、この世界のあり様の解明を進めると考えた。

そのように住民からの視線を加味された地域性こそ「風土」の風性、風土ミリューである。

それはすなわちある共同体のメンバーが感覚を共有する場であり、和辻氏が言ったとおり「風土」は人間にとって自分(たち)の肉体、「身」も同然の存在だった。

ベルク氏は、地理学は人間の風土ミリューを研究する学問だと言った。

p.260 人間の風土ミリューの研究は、通態的な手掛かりがどのように組織されるかを確認しようとする。この手掛かりによって異なった社会が、物の現実を理解し、利用できるようになるのである。その歴史の具体性と特異性のうちで、この手掛かりは動機モチーフのもとに構成され、この動機は地方へと凝集して(第六節)、住民の視点からも、地理学者の視点からも、地域や国を特定し、その特性を定めることができる。

このように、ベルク氏はラ・ブラーシュが唱えた可能主義に地域住民からの視点を加えた地理学のあり方を提唱している。
いわば、地域性を、その従来の要素と(たとえば住民の言い回しなどに現れる)その地域特有の世界観とを共に研究する地理学である。
このような地理学を実践するためにはその研究において、研究者自身の主観を含むあらゆる人間の主観/視点/価値観を相対視するという手続きが要求される。